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「お盆の後の、父(嵐の後の静けさ)」

田舎の大きな家に一人で住む父、85歳。


緑内障で視野は5メートル先の人を見たとき、その人の目のまわり程度しか見えない。見えるところも茶色のフィルターがかかり、かなり不自由だ、両親は別居して、長い。


お盆準備に13日から母が入り、14日に私と夫が入り、15日には家族16人が集まって、フラッシュを焚き続けるような時間の後、その日の夜までに、全員が父の家から去り、元の暮らしに戻った。


母は、通年なら皆が帰った後も父の家に泊まり、ゆっくり目に後片付けをし、16日に去るのだが、今回は15日に帰るとのこと。


母も自分のマンションに大きな庭を持ち、今年の6月から急に弱って来た父の手伝いで毎週父の家に行くことが重なって、疲れてしまった。母だって、もう80歳なのだ。


「え!今日全員帰っちゃうの?」

私も気にはなったけど、我が家もその晩に息子夫婦が泊まる。急いで色々と片づけて、

「お父さんまたね、ありがとう」

と私と息子夫婦で、夕方に慌ただしく帰った。


その後、弟夫婦の車に乗って、母も父の家を去った。


父はお盆の間、海に投げ込まれたように泡泡ジャブジャブのあと、急にまた一人に戻った。


そこから5日経った20日に

「一日中、ただ座っているだけで、おかしくなりそうだ」

と母に連絡があり、

22日には

「もう一人は無理だ、薬でも飲んで終わらせたい」

と連絡があったそうで、それを聞いて私も大変苦しくなった。

父が、あまりにもかわいそうだ。


ヘルパーさんは1時間業務が週3回、見守りのお弁当は挨拶がてら、毎日届く。


話す人や人の気配が無い中、テレビも見えないし、つけっぱなしのラジオを聞き流すだけで、やることが無い。


たまに、座っているだけの仕事の体験をした人の話を聞くけど、ネットも筆記用具も禁止となると、退屈で死にそうらしい。入院中でスマも読書も出来ない人も同じことを言う。


裕福なお客様から

「家にいてもすることがなさすぎて、時計の針が全然進まない」

と言われたこともある。


やることが無いことがストレスになるのって、人間だけな気がする。

他の動物は、動きたくなくなった時が、死ぬときなのではないかしら。


でも父は、触覚はまだ確かなのだし、やることを作ってみたら良いのでは。


幼児向けの木のビーズに糸を通してブレスレッドを作ってもらう。

ハガキに大きな字で「thank you」「happy birthday」と書いてもらう(そしてサロンで使う)

知恵の輪や、スドクを買って、やってもらう。

にんにくや落花生をむいて、瓶に入れてもらう。


どうかしら。


父の苦悩を想像して遠方で苦しんだところで何もならないし、だったら今すぐ電話したほうが良いと思って電話した。

まだまだ明るい夕方の4時なのに、やることも無いから、もう布団に入ったという。


「4時だよ??眠れないでしょ」

「眠れない」

「どうしてるの」

「数字を数えるんだよ。100まで数えて、また1まで戻るのをやってると、眠れるんだ。あれはいいね」

「呼吸法も良いよ。5秒吸って、5秒止めて、5秒で吐いて、5秒止めるの」

「ああ、いいかも知れない」


「何もやることが無いなら、何かできることを考えようよ」

「いやだめだ、何もできない」

「字は書けるでしょ」

「書けない」

「メモを書いてるじゃない」

「いやだめだ、もう何もやる気がしないんだ」

「あんなに計画を立てたり工夫するのが好きだったのに、面白いねえ」

と言ったら

「だめなんだ。もう、脳が脳じゃないんだ」

と言っていた。


父は外から言われたことを覚えるのが苦手になって、

「お父さん、明日宅急便が来るから、ここに2000円あるから、払ってね」

みたいなことを聞くとすぐに混乱してしまう。


恐らく、宅急便の人が来た時に何もわからない状態になっていることを、もっというと、

「なんだこの爺さん、ボケてるのか、仕方ねえな」

と思われることを恐れているのだと思う。


お金はどこだ、いくらだ、いつ?もう来た?お金は?ポケットに入れよう。お金が無い。いくらだった?もう払った?誰がくるのか。

あまりに混乱するので、父によそ様がかかわる要件は頼まないようになった。


なのに、自分の話したいことを話すときは、縷々として語る。

私の自営業の行く末のことなどを父として、案じている。


呼び水を入れるといくらでも水が出てくるのに、自分からは出てこない。ポンプ式の井戸みだいだ。


この話を夫にしたら、

「僕は井戸というよりは、AIに感じるな」

と言っていた。AIはどんなにかしこくても、的確な質問を投げない限りはその能力を発揮することができないから。


そんなこんなで、母と妹と、まめに電話をかけようという話になった。

父は15時をすぎると元気がなくなってくる。

やることがなさすぎるのか、低血糖になるのか。

毎日仕事の合間に、できれば15時から18時の間に電話しよう。


電話すると父は喜ぶ。

「男の子たちは、用件しか話さないから、あれは良くない。女たちは、天気とか、甲子園とか、どうでも良い話を話してくれるから、いいね」

と言っていた。


若い頃は、どうでも良い話を嫌って、

「なんだ、用件だけを言いなさい」

って言っていたのにね。

写真は父がペンチを直そうとがんばっているところ。手の下にはsudokuがあるでしょ、文字、読めてるじゃない!って思ったり。
写真は父がペンチを直そうとがんばっているところ。手の下にはsudokuがあるでしょ、文字、読めてるじゃない!って思ったり。


やる気によって脳が集まったり、散ったりするみたいだ。


他にも書きたいことが沢山ある。


8月はサロンが暇なので、いまのうちに書けることを書いていこうと思います。


でね、8月生まれの方は、バースデー割引が9月まで使えますのよ。

おいでませ。


ご予約はこちらから。


ではでは、サロンでお会いしましょうー!



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