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心筋ドクドク(音語り感想3/3)


音語り演奏会のリハーサルを見学していたら、お若いチェロの女の子が苦戦していた。

弓を弦に叩きつけるようにする、インパクトのある音が出せない。

これはヴィオラの子も苦労していた音。

体の使い方もある。

でもその根源は、「そんな弾き方をしちゃ、絶対だめ!!」っていう強固な鎧で、それが体の動きをきつく抑制して離さない。

鎧は厳しい教育と訓練から発達して、彼女達のテクニックをある程度のところまで守っているけど、それを壊さないと先に進めない。

駄目だ駄目だと言われて、身体に深くしみついていることを、今、取れと言われても。

私のような無責任な見学者がメモを取りながら穴の開くほど無遠慮に見ている中で、自分の音を指摘され、ましてやカルテットの流れを止めているというこの時間。

彼女の意識がみるみる「できない」にフォーカスされていく様子がわかって、苦しくなった。

これって、私にしたら

「だれもあなたの体なんて見ないから、ここで思い切って全部脱いで踊ってごらんなさい、全裸よ。ほら、早く」

っていわれてるのと一緒だよな。。。と思いながら。

(全裸のほうがまだ楽かも)

リハでの彼女はその状態で終わった。

心臓なんだ、と思った。彼女の音がこの曲の心臓になっている。太い脈、こするような叩き方が、この曲の要。

それをヴィオラが馬の蹄のように追ってくる場面もある。追いついたり、遠のいたり。

そんな流れの随、汚いものを拾ってでも、強く強く、血を押し出していく心臓の音。

当日の開場前、落ち着かない顔で会場の周りを行き来する彼女を見かけた。

本番。彼女を含む4人の奏者が椅子に座り、いざその曲が始まるとき、譜面を整えた彼女はチェロを抱えて小さく深呼吸をして、目だけで天井を見た。

彼女が目線を戻したとき、本郷さんがその目線を受け止めて、アイコンコンタクトを送ったのを見た。

本郷さんという人は、普段はフナフナしたお嬢さんなのに、こういう段になると背景に大輪のシャクヤクを次々に咲かせて立つ、慈悲深い女帝のようになるのである)

その一瞬のアイコンタクトに含まれる意味と言ったら。

明るい凪みたいなものが、彼女をただ自然にお迎えした、そんな感じでした。

彼女の強い一拍目から演奏が始まって、その曲の心臓は力強く血を送り続けて、

ああ、心臓、めっちゃ動いてる!!って感動しました。

心筋が、強く強く、脈打って。

最後にこの4日間の練習について聞かれたとき、彼女が

「・・・人生が変わった・・っていうか・・・」

と小さな声で言った。

観客は何もできなくて、チケットを買うことと拍手と感想を送ることしかできなくて申し訳ないな、と思ったけど、

でも、それが全てかも。

だから全力で、細かくて強い拍手をしました。

拍手の音が止んでも、手を叩く所作を続けて、良かったよぉー!を表明しました。

夏の音語りには、忘れられないシーンが沢山あります。

今年も本郷さん、ありがとう。

多分これで、音語りの感想は終結です。

全3話でした。来年行けそうな方はご一緒しましょう!

おやすみなさい。


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