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執筆者の写真秋山妙子

装丁家・熊澤正人さん


本が好きで、書くことが好きで、

文もイラストも自分で書く仕事をするにはどうしたらいいのか

というふわっとした動機で美大を目指したものの、グラフィックデザインには落ちて、止むを得ず空間演出デザインへ。

もともと空間演出にはそれほど興味が無かったので、就職先に困った。

そこで当時付き合ってた元夫が、装丁をしている熊澤さんを紹介してくれて、熊澤さんの会社、パワーハウスで働くことになった。

私がどのくらい非常識な社会人だったのかは、投稿の長さが5メートルほど伸びてしまうのでおいといて、

とにかく熊澤さんは優しい方で、知りたがり屋の動物のような私をアッキーと呼んで、紙のことから印刷のことからなんでも教えてくれた。

(熊澤さんの仕事をのぞいていると、「お金をあげながら教えてるようなもんだ」と言っていた)

活版印刷の町工場にも連れて行ってくれた。文字組みから印刷まで全部見せてくれた。

オフセット印刷の後に活版、表紙は空押し、アンカット製法、作家さんによる竹のペーパーナイフつき

という、ページをペーパーナイフで切りながら読む特別な本を作るとき、アシスタントをさせてもらった。あれは本当に楽しかったし、貴重な経験だった。

私は活版の機械を好きなだけ観察して、このドイツ製の機械は全て回転運動からの展開で出来ているんだなと結論付けて、とても満ちたりた気持ちになった。

妊娠するまで3年、お世話になった。 春、元夫から熊澤さんが亡くなったと聞いた。

今朝、熊澤さんの展覧会がやってるから、行く?と連絡が来たので、一緒に行って来ました。

受付にパワーハウスの女性がいて、名前を名乗ったら「秋山さん。熊澤さんから良くお名前聞いてます」と笑顔で言われた。

その流れで熊澤さんの写真を見たら泣けて困った。

タイトルを大きく太くして、キンアカ(ド派手な赤)にして、目立たせたい

という編集者と、熊澤さんはいつも静かに闘っていた。

アカにしろと言われるとエンジにしてしまうし、アオにしろと言われると深緑にした。

下品なデザインの本は絶対出したくないと良く言っていた。

そんな心意気が良くわかる、素敵な展示だった。

ああ、熊澤さん、1月22日に亡くなったって。

私、23日が誕生日だったんですよ。

と呼びかけながら帰った。

今日声をかけてくれた元夫にも感謝、彼が私を熊澤さんに繋いでくれてるからなー。

元夫とは、夫婦としては上手くいかなかったけど、人間として魅力があるので、普通に楽しい友達です。

彼からは、ほんっとに色々なことを教わった。

現代美術の感じ方、ディープな音楽、民芸、木や植物の話、ものの気配。一番大きかったのは、自炊の食事を全てケロッグのボウル(応募して当たった)で食べていた私に、生活の美しさという文化を教えてくれたことでしょうか。笑

久々にそれぞれの近況を沢山話しました。

雨の街も良かった。

お互い身体に気をつけて、がんばろー!!

ではでは、また、明日。


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