エル・スールという映画を見ていて、女の子がパパのバイクの後ろに乗せてもらうシーンがあり、急に子供の頃おじさんにバイクの後ろに乗せてもらったことを思い出した。
ヘルメットも付けていなかったから、舗装されていないあぜ道を走ってもらったのだと思う。座席に薄い座布団が巻いてあったような気がする。きっとスーパーカブだったのではないだろうか。
砂利がタイヤの下で不安定に滑っている感じ、ダイレクトに体に響くエンジンの音、振動、加速や減速の抵抗が衝撃だった。
おじさんはまだ若くて、もともと心配性のおばさんが困った顔をしていた。
私はおじさんに捕まって、あたまをおじさんの背中に押し付けて、押し寄せる膨大な量の感覚に揺さぶられ、大量な蜂の群れの中に放り込まれたようになった。
騒音と振動を縫っておじさんが私に向かって何か言い、私も大きな声で答えた。
しばらく進むと減速して止まり、向きを変えて戻り、門の前の停止の反動でおじさんにむかって体がつぶれて、すべての振動が消えうせたような、がっかりする静けさに戻った。
ひょいとおろされたけど、振動のない世界はつまらなかった。
母方の祖父母の家はバイクや煙草、沢山の一升瓶、葡萄棚、白い猫、打ち捨てられた五右衛門風呂に泳ぐ魚、人が50人くらい入れるような真っ黒な樽が並ぶ閉鎖された醤油工場、蔵、誰も入らなさそうな暗い座敷、雉の剥製などなど、私の好奇心を掻き立てるものが大量にあり、魔界の入り口のようだった。
モーターのついている二人乗りのものに乗ったのは2、3年前のジェットスキーが最後かも知れない。
眼前に迫り来る風景よりも流れる風景を見るのが好きなので、後ろに乗るのが好きなのです。
ではまた、明日。
