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執筆者の写真秋山妙子

「線の風になって」


この歌を活字で見るまで、ずっと「線の風」だと思って聞いていた。

糸のような風の道筋が沢山、筆跡のように空を舞っている歌だと思っていたのだった。

線の風。

何年か前、ダウンジャケットを処分するとき、

割となんでも解体してみるのが好きなのと、中の羽で小さな枕を作りたいという思いつきから、ジャケットをベランダに運んで解体してみた。

3階、天気の良い午後。鋏を入れた生地の裂け目から一斉に綿毛のような羽毛が飛び出して、秋の空へ昇った。

羽毛は小さな小さな球体で、あまりに軽くて、いつまでも空中に留まり、水の流れを可視できるようにしたマーブリングのように複雑で沢山の風や流れの道筋が現れて、

ゆったりと、殆ど動かない風。細く早い風。その下に逆を向く流れ。小さな回転、S字カーブ、波。

風速。空気が動く速さ。

「風は強くなったり弱くなったり,絶えず息をしながら変化して吹いています。このため,風向や風速を観測する時刻の前10分間の平均で表します。単に風速と言えば平均風速を意味し,ほぼ水平を流れる空気が10分間に進んだ距離(風程)を10分間で割った値です。」

(http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yamaharu/tenki6.htm)

一気に現れたその光景に圧倒され、線なんだ、一方方向に動いているわけじゃないんだ、と思ったのです。

線。

風の定義にならない静穏でも、線。

だから「線の風」という歌はとてもしっくり来た。

実際は千だった。千で済むもんか。

風は、線です。そのイメージが好き。

良い夜を。


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