• 秋山妙子

大きな花(出張グリーフマッサージ)

最終更新: 3月31日

「深い悲しみの中にいるお友達に、グリーフマッサージをプレゼントしたい」というご依頼を受け、佐藤さん(仮名)のご自宅へ。


インターホンを押すと、出て来られた佐藤さんはとてもテキパキされていて、早口で近況を話されました。


食べ物の味がしないこと。

眠れないこと。

「君はこれから引きもこったりしないで、どんどん外にでて、青空の下を歩いて」 という半年前に逝った旦那様からの遺言の通り、毎日午前中から外を2万歩近く歩き回り、 それなのに全然疲れないこと。

何もやる気がしないこと。


「わたし、マッサージが苦手で。以前人から軽くマッサージ受けた後、頭痛がひどくて吐いちゃったんですよ」

「あらららー、それはお辛い。大丈夫です、今日は撫でるだけで、全く押しませんから」

施術を受ける前に「マッサージが苦手」「マッサージが嫌い」と言う方って、実は少なくありません。 

この仕事に入って日が浅いうちは、「今、それ言う?」「宣戦布告なのかしら」と思いましたが、年の功なのか、正面切ってそう伝えておきたいその心境がなんとなくわかるようになってきました。

足から、ゆっくり施術が始まり、

「大丈夫ですか?最初から最後までこれ以上の強さでは触りません」

と言うと、ちょっと間があってから

「気持ち良いですね」

と返事がありました。




足の先は冷たく、下半身は溶けかかったように力なく、首肩の周りだけ鉄のように強固になって、ご自分を守っているようなお体。

少しずつ足が温かくなり、佐藤さんの話もどんどん深くなってきました。

グリーフマッサージ中は眠っていたり、泣いたり、お話したり、うつらうつらしたり。皆さん好きなように時間を過ごされます。

旦那様が亡くなったことを人に言えなかったこと。

少しずつ言えるようになったら、女友達が泣いてくれたこと。

普段、素っ気無い人ほど優しかったこと。

落ち込んで、落ち込んで、老婆のようになったこと。

子どもから 「パパは死んじゃうし、ママはこんなだし、一番可愛そうなのはオレだよ!!」 と言われたこと。

旦那様はまだ近くにいて、佐藤さんの左肩にいて、大事なときに助けてくれること。

まだ全然化粧をする気も起きないこと。

旦那様のベッドで旦那様の布団に包まれると安心するけど、眠れないこと。

施術が終わると、とても美しい顔の人が現れて、陳腐な表現ですけど 「ああ、大きな花みたいだ」

と思いました。ご本人はお顔の変化に気付いたかな。




「これから雨が降るみたいですけど、大丈夫ですか?」

と玄関の壊れた自転車の位置をがたがたと直しながら、

「この自転車捨てたいんですけど、息子が捨てるなって言うんです。断捨離を開始すると、私が死ぬと思っているんです」

「自転車は、息子ちゃんが捨てようって言うまで、置いておいてもいいじゃないですか、広いお家なのだから。ありがとうございました」

御礼を言って、帰りました。

駅から自宅の帰り道、人気の無い並木道で少し雨が降り出し、薄暗い道が光ってきたとき、小さな白い蛾が1匹、耳のそばについて来ました。

なんだか話し掛けられているようで、親しみをもって一緒に歩いていたら、私の左の肩にとまった。

普通に、「旦那様だな」と思いながら歩きました。温かかったです。

グリーフマッサージはこういった不思議な感触を受けることが多く、ひとつひとつのセッションに経年した複雑な模様が広がり、それがどんな色や質感であっても、人の心の織り成す美しさに胸を打たれます。

身体を撫でられながら、安心感の中での心の修復は、私たちがまず「身体を持たないと生きていけない」存在だということを教えてくれます。

皆さんの周りでも思い当たる方がいらしたら、是非おすすめしてください。

外出する気力の無い方には、ご自宅へ伺います。

長くなりました。

ではでは、また、明日。

グリーフマッサージの詳細はこちらです

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